コロナ禍のオフィスビルの空調費
リモートワークの導入により、オフィスへの出社率を抑える企業が多いなか、「オフィスの空調費がなかなか下がらない」という悩みをかかえる方も多いのではないでしょうか。
オフィスの利用者が少なければ、水道光熱費のコストも下がるように思われます。しかし、大規模なオフィスでは空調を細かくコントロールできず、オフィスに出社する人数に関係なく、一定稼働せざるをえない場合があります。そのため、リモートワークする前と空調費が変わらないことが起こりえるのです。
空調費を削減するにはどんな方法があるのでしょうか?
一般財団法人省エネルギーセンターが作成した『ビルの省エネルギーガイドブック』(2020)によると、ビルの省エネルギー実現のための改善提案のうち、37%は空調機器に関するものとわかります。常に稼働しなくてはならない空調にも、運用改善のポイントが多くありそうです。
ビルの省エネルギー実現のための改善提案
引用:ビルの省エネルギーガイドブック(2020) https://www.shindan-net.jp/pdf/building2020.pdf
ビル空調のしくみ
まず、空調費を削減するための方法をお伝えする前に、ビルに導入されている空調の仕組みについてご説明します。オフィスビルの空調方式は大きく2種類に分かれます。
セントラル空調方式(中央方式)
セントラル空調方式は、ビル内の機械室等に冷凍機やボイラーなどの熱源をまとめて設置し、そこで発生させた冷水・温水を建物内に循環させることで、各フロアに設置された空調をコントロールします。
基本的に中央管理室で一括管理を行うケースが多いです。 フロアごとに細かい調整が必要なく、就業時間がほぼ同じである大規模なオフィスビルや大学、病院、大型ショッピングモールなどで多く採用されています。
また、小中規模の建物に導入されている場合は、中央管理室がなく非常にコンパクトな空調制御用コントローラのみで制御しているケースもあります。
セントラル空調方式のメリット
・ビル全体で統合的に温度管理ができる(中央管理室で一括管理しているため)
・コアタイムの空調費が共益費に含まれる場合は、電気代を節約できる
セントラル空調方式のデメリット
・空調設備が大掛かりになるため、設備の投資金額がかかるとともに工事期間が長くなる
・空調用ダクトや温水冷水配管設備のための空間が必要になる
・空調のための温冷水が必要になるので、ボイラー、チラーなど熱源も電気空調装置以外に別途必要になる
・各フロアやエリアごとに温度調整を自由に変更できない場合が多い
個別空調方式
個別空調方式は、フロアごとに熱源となるヒートポンプが個別に分散して設置されるので、部屋ごとに空調機器が独立して存在します。セントラル空調設備に見られる空調用空気ダクトや温冷水の配管設備は必要がないため、それだけ設備投資金額が少なくなります。
また、一般的にフロアごと・部屋ごとに空調の細かなコントロールが可能です(建物によっては個別空調方式を採用しても中央監視室で監視、制御する場合もあります)。
小・中規模のオフィスビル(延べ床面積が2000平方メートル以下の建物)で採用していることが多いですが、近年は大規模ビル等にも導入されるケースも増えてきています。
個別空調方式のメリット
・フロアや部屋毎に空調のON/OFFや温度調節ができる
・冷暖房の切り替えも個別にできるので、サーバールームのみ冷房にするといった使い方もできる
個別空調方式のデメリット
・空調設備設置は天井奥や部屋のすぐ側に設置する必要がある
・統一した空調で運転しない場合、個別に利用した分だけ電気代がかかる
空調費を効果的に削減する方法
上記でご説明した2種類の空調方式を踏まえて、オフィスの空調費を削減する方法をご紹介します。
設定温度の適正化
労働安全衛生法の「事務所衛生基準規則」では、室内の気温は17度以上28度以下が推奨されています。また、環境省の「温室効果ガス排出抑制等指針(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/gel/ghg-guideline/business/measures/view/28.html)」によれば、空調の消費電力量を節約するには「夏は28℃、冬は20℃」が目安と言われています。
一般財団法人省エネルギーセンターによれば、夏の空調設定温度を26℃から28℃に変更するだけで、冷房の消費熱量が11%削減され、消費電力が抑えられた事例もあります。
「夏は28℃、冬は20℃」を推進し、協力していきましょう。
特に、個別空調方式の場合は、フロアや部屋ごとで自由に温度調節ができてしまうため、社員の協力が不可欠です。温度設定に関するルールや周知を徹底し、協力してもらいましょう。
夏28℃・冬20℃の設定では、少し暑い・寒いと感じるかもしれません。その場合は、扇風機やサーキュレーターを活用したり、服装の工夫によって調整することをおすすめします。
オフィス利用者による省エネの工夫
オフィス利用者それぞれの省エネ活動も空調費削減に大きく貢献します。
窓を開閉できる場合は、外気を有効活用しましょう。また、遮熱フィルムやブラインドを活用して直射日光を防いだり、扇風機やサーキュレーターを併用するのも、手軽に始められる対策なのでおすすめです。個別空調方式の場合は、空調の消し忘れ防止を徹底しましょう。
さらに、エネルギー使用状況の見える化サービスを導入すれば、工夫をすべきポイントがわかるだけでなく、個々のエネルギー消費抑制への意識向上にもつながります。
運用方法の見直し
既存の設備が正しく運用されているのかチェックしてみましょう。
たとえば、空調をオンにしてすぐの時間は冷暖房にかかる負荷が大きいので、起動時に外気を遮断して空調にかかる負荷を少なくしてあげるとエネルギー消費が抑えられます。
また、冷暖房の立ち上がりにかかる時間は季節や環境変化に合わせて変化するため、空調をオンにする時間を適切に調節し、空調運転の無駄を短縮することも有効です。
他にも、CO2センサーを設置してCO2濃度を見える化すれば、必要最小限の外気取入れが可能になり省エネに繋がります。
一般財団法人省エネルギーセンターの事例によると、外気の取入れを適切にコントロールするだけで、年間60万円の削減が可能な場合もあるそうです(CO2濃度が高くなってしまう危険性があるため、CO2センサーを導入し監視しながら調整することが必要です)。
参考:ビルの省エネルギーガイドブック 2020|一般財団法人 省エネルギーセンター
https://www.shindan-net.jp/pdf/building2020.pdf
空調機器のリニューアル
大規模な設備の刷新が難しい場合でも、より効率的な機器の導入を検討してみましょう。
建物の耐用年数に比べて、空調機器の入れ替え期間は短く、建て替え前に空調をリニューアルすることもあるでしょう。そういったタイミングに、より効率的な空調の仕組みを導入することで省エネ化を図ることをオススメします。
BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)を導入し、ビル全体のエネルギー消費を最適化するのも効果的です。
また、セントラル空調方式の場合、VAV(可変風量制御システム)を導入することで、部屋ごとの細かな風量調節が可能になります。一定だった送風量を適切に制御し無駄を省くことで、消費エネルギーを削減することができます。
参考:業務部門の対策メニュー|環境省
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/gel/ghg-guideline/business/measures/view/10.html
まとめ
ご紹介した通り、オフィスビルで導入されている空調方式によって、対策のポイントは異なります。まずは、現在の空調方式と運用状態を把握し、手軽にできる方法から実施していきましょう。
ビル全体で空調費を削減するなら、最新のAIがビル独自の状態を学習し、自動で空調を最適に運用するサービスもおすすめです。これは、大規模オフィスビルの空調費25%削減の実績があり、初期費用や設置工事も基本的に必要ありません。 ビルに合った空調運用を手間なく実現したい方は、ぜひチェックしてみてください。